松の木



松の木の

どっしりと広く構えたその姿は

おまえを押し潰そうとした

歴史と呼ばれる記憶の重しあってのことか

身体中を走るうねる模様は

おまえを貫こうとした

幾千、幾万、幾億の秒針の針があってのことか

それでも天へと延びる背筋は

おまえの人生への態度そのものとでもいうのか

言葉などいらぬかのように

雨や風や雪や

ほがらかな日差しまでも、しかめ面で

受け止めるでもなく、抗うでもない

おまえはそこに力強くたたずむ

いつだって険しい顔のおまえは

ひとことも文句も言わず

ましてや称賛の声など

ありがた迷惑なのだろう

けれどおまえの姿そのものが人間たちに訴えかける

この日々を、まさにこの日々を超えてゆけと

人間たちはおまえの厳しさを

讃えずにはいられないのだ

青々と繁る⚫︎はゆらゆらと揺れる

微風がおまえの頬をつたう

まっすぐ何か見つめるおまえ

方々の草木が固唾を飲んで緊張するほどに

おまえはかくも悠然としていて

まるで自然のまんなかで

ひとり全てを支えているかのようだ

まるで宇宙のまんなかで

音もたてずに燃えさかる恒星のようだ

まるで人間なんて意にも介さぬ

ひとり延びてゆく獣道のようだ