無題



もし美しい詩がなかったら
わたしはとっくに死んでただろう

胸に抱えた激情も
静かに佇む悲しみも

行き場に困って窒息して
わたしは最期に月のあかりを頼りに

ひとり、かすかな祈りとともに
人知れずこの世に別れを告げて

美しいはずのあの国へ
行き方も知らず還ろうと

父と母には丁寧な
挨拶をして去っただろう

今、手元にあるこの詩は
まだ醜く、薄汚い

意志を宿した一粒の
種はたしかに生命いのちだと

今はまだ、何にでもない
けれども私の激情と

悲しみをうたうこの詩は
美しい詩になることを待ち侘びている

誰かがわたしをそそのかし
をわたしに用意してあした

詩をうたって、と囁いて
わたしは三言、口遊くちずさ

言葉は永遠とわに連なって
わたしを癒し、誰かに届き、そして美しい国へと

美しい国へと還ってゆく
いつの日か、十行足らずの美しい詩となって