花束
花瓶なくして
あらゆる花はひとつとして咲くことはありません
自然の花々は、その場その場に咲く位置を運命づけられていて
そこに咲くことこそ、最も美しく、最も麗しいことでしょう
けれど、私たち人間は、そうはいきません
私たちは咲くべき位置も、その運命も知らず
自らがどんな色をつけるのかも知りません
私たちはかろうじて、ただ咲くことをひたすら目指す
誇りをたずさえて、生まれてきました
日々、生きていくなかで
私たちは周りから、色とりどりの花をもらって生きてゆきます
みんな、まだ未熟な花々を
ときには、押し付けがましく
ときには、あまりに丁寧に、うやうやしく
ときには、思いもかけず
手渡してゆきます
ときには、私も誰かの花を
「どうか、その花を私にください」
と、頼むこともありますし
どうしようもなく羨ましく思って
その花をものにしようと、過ちを犯すこともあるでしょう
でも、あらゆる花々は、そうした私たちが繰り広げる喧騒をよそに
たえず、ある人から、ある人へと、手渡され
だんだんと、ゆっくりと、花開いてゆきます
なかには、好みでない色の花もあって
呪わしい色の花もあることでしょう
けれど、そうした花も、他の喜ばしい花をおぎなって
いつの日か、大きな、例えがたいほど大きな
ひとつの花束になって
そして私たちは最後に
一輪の、凜として咲き誇る花を
花束に添える運命にあります
その一輪の花こそが、私であって
ようやく、私たちは、自らの運命に安らうことになります
また、そのとき、私は気づくでしょう
その花束の、一本一本の全てが花瓶に生けられてきたことを
花を必死に集めて回っている間は
どうしてこんなに単純な
それでいて、大切なことに
気づかなかったのでしょう
私が咲く位置を、不安のただなかで、決めたとき
常にあなたが花瓶であったことを
私の運命の始まりに、常にあなたがいたことを
私たちという花は
花瓶なくして
ひとつとして咲くことはありません
あぁ、なんて不思議なことでしょう
最後に添えられた一輪の花は
こんなにもその花瓶にぴったりで
あたかも自然の中にあったかのように
凜として、麗しく、そして力強く
咲いているのです
花瓶にさされた一輪の花は
ようやく自分の運命の始まりと終わりが腑に落ちて
こんなにも朗らかに、たおやかに
咲き誇っているのです