裂傷
傷口
その裂傷からとめどなく流れる血をとめようと
もがく者の、その姿
何と痛ましいことか
悶え苦しむ様は、ひどくおぞましく
のたうちまわるその軌跡には影が、べったりと
べったりと付き纏っている
、影は囁く
お前はさぞ孤独に違いない。孤独を埋めようと何かに寄りかかろうとしても」
それも砂上の楼閣、あまりに頼りない。頼りないばかりか
「……お前はその楼閣を、苦しむがあまりに、苦もなく打ち壊す
傷口からは、まだ哀しみがあふれだしている
癒えることのない裂傷
涙が流れるところの眼を
……自ら銃口を突きつけ今、撃ち抜かんとする自己への憎しみ、苦しみ
たった一つの身体が
己の意志に反してバラバラに引き裂かれて
。どれが本物かもわからない。手のひらから、するするとこぼれ落ちていく
。あらゆるものが自己を主張して譲らない。傷はじくじくと痛む
裂傷は広がっていく。ひび割れは無造作にそれでいて意味ありげに
全てが自らの鏡のようにも思えるし
全てが自らを爪弾きにしているようにも思える
裂傷を食い止めんともがく哀れな姿──
──あれは、もはや人ならざる者
沈黙を守る魂
魂も、保身のために、その怪物を見捨てる
救いは、望むべきでないらしい
徹底的な孤独。誰もが希望と呼ぶものでさえ
。真っ黒な無地の手帳だ。書き足す意志はあらかじめ挫かれている
……高潔な魂は、あんなにもよそそしく、あんなにも遠くにある
月は眠たげに、仕方なく、無気力に、その手負いの獣の影を描く
誰もその傷口に興味などない
傷口をあかあかと照らす満月でさえ
。寒々しい無関心。しんしんと降り注ぐ。獣は薄い皮膚を震わせる
叫び──空間は鎮まりかえっている
その叫びさえ透明なのだ
月は、ただ、燦々と、青白く燃え続ける
。疼く塊。いまや傷口こそが主人となった
徴その裂け目は、かつて四肢が繋がっていたことの
記憶なのだ──
運命に抗って、再び立ち上がるほどの力の源は見当たらない
けれど、物言わぬ死体になるには不必要なほどに暴れる四肢は
どうやら、意志を宿しているようだ
決して、美しい意志ではない
日のひかりは痛々しすぎる
月のあかりは優しすぎる
あぁ、どうか、どうかこの記憶が、この自己が
なかったらと願うほどに
なかったらと願うほどに
哀しいのが
あぁ、この哀しみを抱えている者こそが
。私だ。傷口をそっと抱える私の姿だ